東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1171号 判決
控訴代理人は、「原判決を取消す、水戸地方裁判所下妻支部昭和二八年(ヨ)第一八号仮処分申請事件についてなした昭和二八年三月一二日附仮処分決定を認可する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出認否は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
三、理 由
別紙目録<省略>記載の不動産はもと岡本保吉の所有であつたこと、右保吉及びその妻らくは昭和六年五月四日俊郎と養子縁組をなし、俊郎は昭和一八年一二月一五日控訴人の長女たる洋子と婚姻し昭和二〇年一月二三日長男和郎を儲けたが、俊郎は間もなく同年三月二六日死亡し、次いで和郎も同年八月二日死亡し、俊郎には他に直系卑属がなかつたこと、及び保吉は昭和二三年二月一〇日、洋子は昭和二六年一月七日それぞれ死亡したところ、控訴人は右保吉の死亡により同人の所有たりし別紙目録記載の不動産は、同人の家督相続人に指定されていた洋子と、保吉の後妻たる被控訴人とが共同にこれを相続したものであり、洋子の取得した右相続財産は、洋子の死亡によりその直系尊属たる控訴人がこれを承継取得したものであるから、別紙目録記載の不動産に対して控訴人は被控訴人とともに共有権を有するものであるとして、被控訴人を債務者とし、右不動産に対する仮処分の申請をなし、この申請に基いて水戸地方裁判所下妻支部が昭和二八年三月一二日右不動産に対し被控訴人は売買譲渡、質権、抵当権の設定その他取壊移転等現状を変更する一切の行為をしてはならない旨の仮処分決定をしたことは、当事者間に争がない。
よつて本件仮処分異議の当否について考えてみる。
被控訴人は、異議の理由として、洋子が仮に保吉の家督相続人に指定されたとしても、新民法の施行によつてこれは廃止されたのであるから保吉の遺産についてはなんらの権利を取得しない。従つて別紙目録記載の不動産について控訴人になんらの権利がないのであるから、控訴人の申請は却下さるべきであると主張する。おもうに、成立に争のない甲第一号証(保吉の除籍謄本)によれば、洋子が昭和二〇年九月九日岡本保吉の家督相続人に指定されたことが明らかである。しかし、保吉死亡当時は家督相続に関する旧民法の規定は既に廃止され、新民法が施行されていたのであり、新民法においては家督相続制度は全然認められないのであるから、洋子に対する右家督相続人の指定はその効力を生ずるに出ないものといわなければならない。従つて家督相続を前提としてのみ認められる保吉と洋子との間における財産の承継もついにその効力を生じなかつたものというべきである。控訴人は、指定家督相続人は法定推定家督相続人と同一の地位と権利を有するものであるから、法定の推定家督相続人がそうであるように、指定家督相続人も家督相続制度が廃止になつても、なお遺産相続人として相続権を有するものと解すべきであると主張するけれども、いわゆる法定の推定家督相続人が新民法施行後において被相続人の遺産を相続しうるのは、その有する親族法上の身分例えば直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹或は配偶者等の身分に基くものであつてかつて法定の推定家督相続人たる地位にあつたからというのではない。新民法は相続人の範囲を一定し、その規定する身分を有する者に対してのみ相続権を認め、本件における洋子のような身分を有する者に、被相続人たる保吉に対する相続権を認めた規定は一つも存しないのであるから、控訴人の右主張は到底採用に値しない。されば、控訴人は洋子の死亡により別紙目録記載の不動産の所有権を取得すべきいわれがない。
従つて、本件不動産に対し所有権を有することを前提とする控訴人の本件仮処分申請は理由がないから、これを却下すべく、右申請を許容した原決定はこれを取消すのを相当とし、これと同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 角村克巳 菊池庚子三 吉田豊)